「かぜ」〜見えてきたその実像

医療雑談

子供のときに「体を冷やすと風邪を引くよ!」とよく言われました。これって本当ですか?

私も不思議に思っていました。しかし最近になって、風邪について少し分かってきたことがあります。

 なかなか収束の見えない新型コロナ禍ですが、その影響で激減している病気があります。それは風邪とインフルエンザです。
 例年、冬の訪れとともに風邪とインフルエンザが流行し、内科外来にもその患者さんが増えてきます。ところが、2020年〜2021年の冬はその様相が一変していました。風邪症状の外来受診者は激減し、インフルエンザに至っては患者数はほぼゼロという状況でした。マスクの着用や人との接触を減らすといった行動の結果であることは間違いありません。ただ、そうした影響ばかりでなく、これまで風邪について抱いていた常識が、実はけっこう違っているのではないかという事に気付かされたのでした。

 いまだかつて、一つのウイルスに対してこれほど広範囲に検査が行われた事はありません。言うまでもなく新型コロナウイルスです。そして、かなりの割合で不顕性感染(感染しても症状がない)であることが分かりました。以前からあった通常のコロナウイルスは、急性上気道炎(風邪)の原因ウイルスの一つであることが知られていました。しかし、通常の風邪でウイルスの有無を検査することはなく、ましてや患者の周囲の人(今で言う濃厚接触者)がウイルスに感染しているかどうか、調べることは皆無でした。風邪に対して、医師も研究者も強い関心を払う者は少なかったためです。しかし、実は風邪のウイルスでも、かなりの割合で不顕性感染が起こっていたのではないかと推測されます。風邪のウイルスに感染しても、多くの人は症状が出ないままに治癒してしまっていたのではないかという事です。そして、一部の人、特に免疫力が低下している人、そのウイルスに初めて感染した人などで、発熱、喉の痛み、鼻水、咳といった急性上気道炎の症状が発症していたのです。
こうした発想により、私が以前より風邪について疑問に思っていた事に答えが見つかりました。

【疑問1】風邪を引いた人に接していないのに風邪を引くのはなぜか?
【答え】風邪ウイルスに感染しているが症状が出ていない、不顕性感染者から感染していた。
「ちゃんと手洗いうがいをしていなかったからでしょ!」と子供に言っているお母さんが実は感染源だった…なんて事も無きにしもあらずな訳です。

【疑問2】体を冷やすと風邪を引くと言われているけどホント?
体を冷やすと免疫力が低下するらしいという事は以前から分かっていました。しかし、それだけでどうして感染症である風邪を引くのか疑問でした。
【答え】すでに風邪のウイルスに不顕性感染を起こしていたが、免疫力が低下することで発症してしまった。

 特に疑問2から考えるに、実のところ、私達はかなり頻繁に風邪ウイルスの不顕性感染をおこしていたのではないかと思われます。しかし、多くの大人はすでにそのウイルスに対する免疫を持っており、感染しても無症状であったり、ごく軽い症状で治癒しているのです。子供はよく風邪を引きますが、大人になるとあまり引かなくなるのはこういう訳です。一方で、子供や若者はNK細胞(ナチュラルキラー細胞)などの自然免疫(どの病原菌にも対応する免疫)が活発で、未知のウイルスから体を守っています。

 風邪が流行しなくなった結果、風邪のことを理解するというのは皮肉な結果ですね。それにしても、普通の風邪を気をつければ良い社会へ、一日でも早く戻って欲しいものです。
なお、以上の内容はデータによる裏付けはなく、最近の知見に基づいた個人的な推測です。

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