頭痛で内科にかかったら漢方薬を処方されました。漢方薬というと昔の治療というイメージですが、どうなのでしょうか?
最近、漢方薬の効果を見直すお医者さんは増えてるようです。
最近、日本の伝統的医療である漢方薬が見直されているようです。
実際、私の周囲でも漢方薬を診療に取り入れている医師は以前よりも多くなっている気がします。皆さんが何らかの理由で外来を受診した際にも、漢方薬の処方を受けることがあるかもしれません。
「いまどき漢方薬?他の薬はないの?」
と驚かないためにも、現代医療での漢方薬の役割について知っておくのも悪くないでしょう。
漢方薬とは生薬(しょうやく)と呼ばれる、自然から得られる素材から作られています。一つの生薬だけの漢方薬はなく、複数の生薬がブレンドされているのが普通です。このブレンドが漢方の最大の特徴だと私は考えています。生薬の大半は植物の一部です。有名どころになると皆さんも耳にした事があると思います。おそらく一番メジャーな漢方薬は葛根湯だと思いますが、その主成分である「葛根(かっこん)」はクズという植物の根です。くず湯という飲み物も同じものです。体温を上昇させる効果などがあります。「人参(にんじん)」も有名な生薬で、体力の低下した人向けの処方でよく使われています。こうした植物由来の生薬が、主要なものだけでも40〜50種類はあります。ちょっと変わったところでは、「牡蛎(ぼれい)」は牡蛎(かき)の貝殻、「竜骨(りゅうこつ)」は動物の骨の化石、「石膏(せっこう)」はズバリ石です。こうした、様々な生薬を配合して一緒に飲むことで、色々な効果を起こすのが漢方薬です。
科学の技術により様々な化学物質を作るようになった現代と違い、昔の人達は自然の中で得られる物でなんとかするしかありませんでした。漢方薬の源流は古代中国にありますが、おそらくは膨大な経験と観察から、薬理作用のある生薬を見つけてきたのでしょう。そして、それらを組み合わせることで、治療効果のある漢方薬の処方を発見してきたのです。現代人から見ると原始的に思えるかもしれず、これまた昔からある祈祷やまじない等とゴッチャにしてしまう人もいるかも知れません。しかし、漢方薬は観察と分析に基づく、科学的手法で作られてきているのです。
江戸時代などでは医師といえば殆どが漢方医で、主に漢方薬を使って治療を行っていました。しかし、できることに限界があったのは事実で、新しい医薬品が次々と開発され、治療効果を上げて行くにつれて、漢方薬は存在感を失っていきました。特に画期的であったのは抗生物質の発見で、漢方薬では歯の立たなかった、感染症による様々な病気が治療可能になりました。漢方薬しかなかった時代、肺炎や虫垂炎は死に至る病でした。このように、医療の中心は化学物質の薬剤が担うようになり、多くの医師たちは漢方薬に見向きもしなくなったのです。私が医学生だったとき、大学で漢方薬について学ぶ講義はなかったと思います。医師のごく一部だけが、個人的に漢方薬へ興味を持ち、使用しているという状況でした。では、最近の漢方薬の復権はどうして起こっているのでしょうか。それは、多くの医師が日常の診療で限界を感じている結果なのです。
現在の日本の医療は、ヨーロッパやアメリカで生まれ発展してきた、西洋医学の延長にあります。江戸末期に西洋医学が輸入されるまで、日本の医療といえば東洋医学でした。この両者の最大の違いはどこにあるのかというと、病気のとらえ方だと私は思います。西洋医学では病気は臓器の問題として考えます。下痢は腸の異常、喘息は肺の異常、てんかんは脳の異常といった具合です。一方、東洋医学において、病気は体全体の問題として考えます。下痢も喘息もてんかんも、体全体の状態が悪くなった結果として考えるのです。ですから、例えば喘息を疑う患者さんがいたら、西洋医学では肺の音を聞いたり、必要があればレントゲンを撮ったりしますが、東洋医学では舌を見たりお腹を触ったりします。
これは、臓器単位で考えるトレーニングを受けてきた医師にとって、ずいぶんと奇妙なことをしているように思われます。私も漢方医学に触れ始めたときには不思議でした。後に分かったことですが、東洋医学の考え方では何の病気でも原因は全身の乱れにあり、その乱れを把握するために舌診や腹診などを行います。漢方薬はその乱れを正すために使用する手段なのです。ですから、一つの漢方薬でも適応症を見ると色々書いてあり、関係なさそうな病気が並んでいたりします。例えば、五苓散という漢方薬があります。効能を見るとむくみ、頭痛、下痢、めまい、二日酔い等々…多様でバラバラに見える症状や疾患が並んでいます。しかし、漢方薬の考えでは「体内の水の異常」というものがあり、それを正すことで上記のような症状を改善するのです。このように、漢方薬には西洋医学とは違ったアプローチがあり、これが現代の医療でも生きてくることがるのです。
内科の外来には様々な症状を訴える患者さんがやってきます。多くの場合は、診断をして治療を行います。しかし一部の患者さんでは、体の不調を訴えているにもかかわらず、原因が分からない場合があります。そうすると治療に難儀することになります。また、診断は付いているが、適切な薬がなかったり、薬を使っても改善しなかったりする場合もあります。このように治療からこぼれ落ちてしまう患者さんが数多く存在しているのが現代医療の現実です。多くの医師はそれを知っているため、漢方薬に活路を求めるようになったのだと思います。私自身、こうした「治療に難儀」するケースで、漢方薬が力を発揮する場面を経験しています。一部の高血圧の患者さんでは、漢方薬を使って効果が出る場合もあったりします。こんな風にして、臨床医の間で漢方薬の再発見が起こっているようです。