友人から山登りに誘われているんだけど… 高血圧があるけど行っても大丈夫だろうか?
高血圧がある方でも、きちんとリスク管理をすれば登山を楽しむことができます。
手軽なハイキングから本格的な高山縦走まで、様々なスタイルで山登りを楽しむ中高年登山者の方が増えています。そして、残念なことに中高年登山者による、山での遭難事故が多発しています。
道迷いや滑落、天候急変による低体温など、事故の原因は色々ありますが、登山中の体調悪化による事故もかなりの割合を占めていると考えられています。転倒や滑落など、一見すると別の原因のように見えても、危険な場所で急に意識を失ったりしたことが引き金になっている事故もあるのではないかと言われています。ですので、山登りをする場合は遭難防止という意味でも、普段からの健康管理がとても重要になります。
では、高血圧のある人は山登りを止めるべきなのでしょうか。いえ、ある程度の注意は必要ですが、登山をしてはいけないという事はないと思います。私の外来でも高血圧の治療をしながら山登りを楽しんでいる方はいます。リスクをしっかりと理解した上で、無理のない計画をたてるようにしましょう。
高血圧の人が登山をするときのリスク
①血圧が不安定となる場合がある
登山は早く出発し、時間に余裕を持って下山するのが原則です。そのため、山へ行く日はいつもより早起きになりますが、寝不足は血圧上昇のリスクがあります。また、高度が上がると気圧が低くなりますが、これが血圧に影響を与える可能性があります。普段からしっかりとコントロールできている人なら多少上がっても大丈夫ですが、高血圧を放置していると更に上昇して、脳血管障害などを起こす危険があります。
②動脈硬化を起こしている可能性がある
高血圧のコントロールが悪い状態が続いていると動脈硬化を起こしてきます。動脈硬化とは動脈の内腔が劣化して狭くなってきた状態です。そうすると血液の流れが悪くなってきます。動脈硬化の進んだ人の場合、普段は症状がなくても、登山により心臓の負荷が増えると狭心症や心筋梗塞を発症する危険があります。また、狭くなった所には血栓という血液の塊ができやすく、そうすると脳梗塞や心筋梗塞の原因となります。登山中に大量の汗をかき、体が脱水傾向になると血栓のできるリスクが高くなりますので注意が必要です。
高血圧のある人が山登りをする際にやっておくべき事
こうしたリスクを踏まえた上で、高血圧のある人が山登りをする際にやっておくべき事は以下になります
①普段から血圧をしっかりコントロールしておく
山登りをしない人よりも、より良い値を目指す必要があります。自宅で定期的に血圧を測定して、自分の状況を把握しておきましょう。
②薬は忘れずに飲む
登山中は食事の時間がいつもと違ってくるため、薬の服用のタイミングを逃してしまいがちになります。基本的に高血圧の治療薬は食後でなくても服用して大丈夫ですので、普段の薬の時間になったら食べていなくても服用しましょう。ただし、糖尿病の薬を一緒に飲んでいる場合は、食事のタイミングが重要になりますので注意してください。
③合併症の有無をチェックしておく
動脈硬化による合併症がないか、またその発症リスクが高くないかを調べておくと良いでしょう。お勧めは脳ドックです。頭部MRA(MRIによる血管の検査)や頸動脈エコーなどで動脈硬化の程度や、脳梗塞の発症リスクがわかります。
④無理な計画は立てない
なにもない人と比べると、病気による遭難事故を起こすリスクが高くなるのは仕方がありません。体力的にハードすぎる山行は体のストレスになりますので、病気を発症する危険があります。時間的にも体力的にも余裕を持った計画を立てるようにしましょう。
⑤できるだけ単独行はしない
山の中で動けなくなったとき、単独行では救助の可能性が低くなります。仲間を見つけて山へ行くようにしましょう。もし、一人で行くときは詳細な計画書を作って家族に渡しておくようにしましょう。「山へ行って戻ってこないが、どこに行ったのかが分からない」という遭難事例が実際にあり、捜索はとても大変になってしまいます。
山登りは人生に素晴らしい体験を与えてくれます。高血圧があるからといって簡単に諦めてしまうのはとても残念です。リスクをよく理解し、きちんと対策を行った上で、安全な山登りを楽しむようにしましょう。
なお、高血圧で通院中の方は主治医に相談されることをお勧めします。